2012年11月11日日曜日

独居老人の気遣い



毎夜、同じルートのルーティンで愛犬の散歩をしています。

今宵、そのルート上の一部でバックをする状態の著しく進行速度の遅い「くるま椅子」を発見。

一種異様で日常には見受けられぬ光景に私は妻に愛犬のリードを預け、駆け寄りました。


老人は男性で、坂を上がるのがえらいのでバックでゆっくり登っていたとのこと。

夜の23時40分位にです。気温は12度位でしょうか。



さすがに放ってはおけず、すわ駆け寄り、押すお手伝いを差し上げました。

そこから結果一キロ弱を(一旦は遠慮されたため離れましたが、再度申し出て)
自宅までお手伝いさせて頂き、アパートにエレベーターまで送り届けた次第です。


一度、それではと離れたものの、そのまま放っておいたら後悔する気がしたのです。
それとしばらく見守ってはいたものの、やはり相当な疲労のためかしょっちゅう止まるのですね。




驚いたのはその老人の話す内容でした。

大変気を遣う方だけに、こちらからインタビューの方式で、現況の不自然さを少しずつ
解く方法で挑みましたが、そのお話に、何だが切ない心境になり、いたたまれなくなった次第です。


年齢は70。
そもそもの原因は鼠径部(そけいぶ)の骨折。
回復はしたがしびれが酷く完全歩行は困難。
独り住まいで西宮市内のどちらかといえば北側のここから南の今津にある病院に通院。


ここで驚愕したのが、家を一人で出たのが午前11時!との事。


治療なり、リハビリなりを終えて、難関である坂のある地点で私が出会ったのは、
実に12時間半を過ぎた時点だったという事です。

気の毒に過ぎます。

しかも私の補助に大変気を遣う謙虚な方でした。

世の中の元気な老人に比して、理不尽に猛烈にまた哀しみをおぼえ、憂いました。
まぁやはり神様なんぞは存在しないのでしょう。
こんな出来事があったらあんたが救えと。


実は一度、ここまでで結構です、とおっしゃるので、それなら、とお別れしたものの、
結局、放っていったとして自分の気持ちはおさまらなかったことでしょう。
妻と相談し、ご自宅の前のところまでお力になると申し出た次第です。


「足をやったらもうあきまへんなぁ~」と哀しく嘆いておられたので、
根拠はありませんが、まだお若いので諦めたらいけません、良くはなりませんよ、と。

男は結局弱いですが、まだお若いはずですよ、と勇気付ける引き出しの少なさと
自分の浅さを痛感しました。

これでも祖父母の死の間際を数年世話した経験はあります。
最終的には気力であり、また月の引力にも負けるほど弱る事実も若い頃に見てきました。
まだ、裕福で身内がそばにいただけましかと思います。


車椅子を押すという行為も、まま体験出来ませんが非常な重労働です。
1キロ程の行程を押して出合った上り坂の強烈なGはそれはえげつないものでした。



しかしそもそも、こんな国でしたっけ?




何らかの措置はないのもんなのですか?と。
老人への年金は結構ガッツリ巻き上げれてまっせ私ら。

バブル後にステディな仕事もなく少子化に拍車がかかり、便利に使われてきた50歳手前としては、
理不尽極まりないと憤慨の概念すらおぼえます。


老人が0時前に10時間程をかけて病院から車椅子を自ら押すという事自体異常ではないかと。
なかんずくまわりも誰も変に思わないのかと。病院も、ほなではさいなら、なんですかと。



最近こそ東日本大震災の話題ばかりですが、この老人は阪神大震災の犠牲者でした。
駅に近かった便利な家が被災し、一旦海側のアパートに。

しかし、あまりの寒さに転居を申し出て山側に。
しかし逆にもっと寒かったですわ~と気丈に語っておられたのには、さすがの私も何か猛烈に
哀しく、めずらしく涙腺に。なぜ今津まで?と尋ねると、近くの病院は不親切やと。



きっちり自己紹介をされ、最後にエレベーターでたまたま出会った中年男性に引き継いで、
役割を終える際に、初めてお顔を拝見し、丁寧にお礼を幾度も繰り返されたのは
恐らくしばらくは忘れ得ぬ気がします。おひとり住まいというのがまた心配です。


どうも、変だと思います。このような理不尽は私がたまたま発見したから良かったものの、
凍死、交通事故死も考えられたからです。

これからの我が国に多発する出来事でしょう。
孤独死に直結間違いないでしょうし。



元気が取り柄、元気老人も結構ですが、
その元気で無邪気な老人はもう少し弱者に対してあなたたちが何かしら行動出来ないもの
なのでしょうかしらと。時間もあり裕福なのでしょう。

年金を払わされる働き盛りからの価値を考察するに、どうも理不尽に思え、
とにかくひどい光景に哀れみを感じた特別な散歩の時間になりました。


実に気の毒な上、いやな出来事ですね。



因みに、普段よりその3倍強を歩かされた我が愛犬ボビーはバテバテとなり、
車椅子どころか階段をこちらが抱えて帰る始末。




決してワンダフルでは無い何かが確実に存在します。今の日本。